そもそも、なぜこれほどまでに概念がややこしいのだろうか。時計の針を19世紀に巻き戻してみると、その答えが見えてくる。1869年にロシアの化学者ドミトリ・メンデレーエフが近代的な周期表の基礎を構築した時代から、科学界では「物質の最小構成要素としての概念」と「現実世界に存在する純物質」の区別に繊細な議論が重ねられてきた。
現在、日本化学会が定義する用語法においても、元素は「原子番号(プロトン数)によって分類される原子の種類」であり、単体は「1種類の元素のみから構成される純物質」と明確に区別されている。しかし、高校の初期段階における化学教育では、日常語としての「酸素」や「水素」のイメージが先行しがちだ。周期表にズラリと並んでいる記号は、あくまで物質を組み立てる「レシピの材料名(元素)」に過ぎない。実験器具の中で気体として存在するものが「完成した単体」なのだという本質を捉え直す必要がある。