彼女のキャリアを語る上で欠かせないのが、三島由紀夫の代表作を映画化した映画『潮騒』(1954年)である。過酷なロケーションとして知られる三重県神島で撮影された本作で、彼女は漁村の娘・初江役を熱演。潮風にさらされながら魅せた純粋無垢な表情は、観客の心を瞬く間に捉えた。
相手役を務めたのは、当時新人として抜擢された宝田明だった。撮影現場では厳しい自然環境と連日格闘しながらも、若き二人は互いに演技を高め合ったという。焚き火を挟んで見つめ合う伝説的な名シーンの裏には、凍えるような夜の寒さと戦いながら、谷口千吉監督の指導に応えようとした青々しい情熱と泥臭い努力が隠されていた。
スタジオ撮影全盛だった当時、全編にわたる大規模な現地ロケは異例の試みだった。過酷な現場で鍛え上げられた度胸と、宝田明との息の合った掛け合いは、彼女を大衆スターの座へと一気に押し上げる原動力となったのである。