そもそも、なぜ茄子の味噌焼きに「鴫(しぎ)」という鳥の名が冠されているのだろうか。そのルーツを探ると、日本の職人技と工夫が詰まった江戸時代食文化へと突き当たる。
元来、鴫焼きとは野生のシギ肉を串に刺し、味噌を塗って香ばしく焼き上げた料理を指していた。しかし、仏教的価値観や肉食制限の風習があった時代、精進料理の知恵としてシギ肉の代わりに用いられたのが、旬を迎えた大ぶりの茄子(ナス)だったのだ。油を吸うことで肉厚でジューシーな食感を生み出すナスは、当時の人々にとって格好の「肉の代用」であった。
こうして誕生した茄子の鴫焼きは、単なる精進料理の枠を超え、庶民に愛される日本伝統郷土料理として定着。時を経た現在、全国各地の老舗割烹からモダンな居酒屋に至るまで、和食調理・外食産業の現場で愛され続けるロングセラーメニューとなった。