下條アトムの才能が爆発したもう一つの大舞台が「洋画吹き替え」の世界だ。中でもハリウッドの大スター、エディ・マーフィの日本語吹き替えは、もはや伝説の域に達している。映画『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズにおけるアクセル・フォーリー刑事の口八丁なマシンガントークは、彼の声なしには成立しないと言っても過言ではない。
早口でまくし立てる原音のテンポに日本語を合わせる作業は、極限の職人技を要した。吹き替え収録現場での裏話として、彼は単に直訳を喋るのではなく、エディの独特なリズムや「笑い声のニュアンス」まで徹底的に研究し、自身の身体に染み込ませてマイクに向かったという。海外の喜劇王のエネルギーを日本語という言語に見事落とし込んだ彼の仕事は、吹き替え文化の歴史における一つの到達点となった。