2010年4月、日本の刑事法制は歴史的な転換点を迎えた。殺人罪など最高刑が死刑に当たる重大犯罪について、公訴時効が撤廃されたのである。これにより、「逃げ切れば罪に問われない」という不条理の壁は崩壊した。刑事司法・法医学の現場では、時効撤廃を契機にコールドケース(未解決事件)専従班が常設され、過去の証拠品に対する再鑑定が日常業務として組み込まれるようになった。
特に法医学分野における技術革新は目覚ましい。劣化した極微量の皮膚片や唾液からでも詳細な個人識別を可能にするSNP(一塩基多型)解析や、犯人の年齢、眼球・毛髪の色を統計的に推定するDNAフェノタイピングが実用段階へと入っている。数十年前のホルマリン漬け組織や微細な繊維片からでも犯人像を炙り出す技術は、かつて迷宮入りと諦めかけた捜査員たちに強力な武器を与えている。