今や国民的キャラクターとして親しまれるサザエさんだが、その着想が誕生した場所は、昭和20年代初頭の百道(ももち)の海岸だった。漫画家の長谷川町子は戦時中の疎開先であった福岡の地で病後の静養を兼ね、毎日この海岸を散歩していたという。打ち寄せる波とどこまでも続く青い空を見つめる中で、登場人物に海産物の名前をつけるという斬新なアイデアが閃いた。
波打ち際を歩きながら頭の中でキャラクターの性格を練り上げた長谷川町子。波の音に耳を澄ませ、カツオやワカメ、舟や波平といった個性豊かな家族像が生み出された瞬間こそが、作品の真の起点だ。単なる娯楽にとどまらず、戦後の復興期にある人々の心を温かく照らした物語は、この福岡の海辺から産声を上げたのである。