閑静な住宅街に突如として響き渡った悲劇の引き金は、白昼のわずかな隙間に引かれた。「名古屋市西区主婦殺害事件」が発生したのは、正午から午後0時30分頃とされる極めて短い時間帯である。物音を聞きつけた近隣住民が異変を察知した時には、すでに犯人は現場から立ち去っていた。室内に荒らされた形跡はほとんどなく、金品を執拗に物色した形跡も見当たらない。強い殺意を持って高羽奈美子さんを急襲した冷酷な手口は、突発的な犯行とも計画的な怨恨とも断定しきれない不気味な謎を残した。
残された2歳の長男は奇跡的に無傷だった。泣きじゃくる幼子の瞳に、一体どれほどの恐怖が焼き付いていたのか。愛知県警察が現場検証に入った瞬間から、凄惨な事件の構図が徐々に浮き彫りになっていく。犯人は被害者と激しく揉み合った際に自らの左手を負傷しており、廊下や階段、さらには逃走経路の周辺にまで鮮明な血液を滴下させていた。被害者の無念、遺された幼子の未来、そして白昼堂々と姿を消した女。そのすべてが、いまなお癒えぬ傷痕として名古屋の街に深く刻まれている。