坂本慎太郎のリリックは、一見すると何気ない日常のスケッチのようだ。散歩、部屋の窓から見える景色、他愛のない会話。しかし、その平穏な描写のすぐ裏側には、底知れない不条理とシュールレアリズムがぽっかりと口を開けている。
『空洞です』で描かれた実存的な虚無は、ソロ4作目『物語のように』に至り、パンデミック以降の不穏な世界を平熱で受け止めるような、不思議な優しさと諧謔味へと変化した。乾いたスネアドラム、腰にくるコンガ、涼しげなラップスティールギター、そして女性コーラスとの掛け合い。それらが組み合わさることで、ありふれた街の風景がまったく別の異世界へと変容する。
現実を逃避するためではなく、奇妙な現実をそのまま愛して生き抜くためのポップス。彼の音楽が持つ唯一無二の効能は、まさにこの境界線の描写力にある。