松平定知の名を不滅のものにしたのは、2000年から約9年間にわたって放送された歴史ドキュメンタリー番組『その時歴史が動いた』である。「その時、歴史が動いた――」という決まり文句とともに画面が切り替わる瞬間、視聴者はまるでタイムスリップしたかのような錯覚に陥った。番組が見せたのは単なる年表の解説ではない。極限状態に置かれた人間たちの苦悩、決断、そして歓喜のドラマだった。
さらに『NHKスペシャル』をはじめとする大型本格ドキュメンタリーにおいても、彼のナレーションは作品の品格を決定づける要となった。過度な感情移入を排しながらも、要所で見せる情感の込め方は職人芸の極致。事実を冷徹に伝える報道の視点と、物語を劇的に紡ぎ出す語り部の視点を自在に行き来する唯一無二のスタイルを確立したのである。