物語の背景を理解する上で外せないのが、伊予国(現在の愛媛県)大三島に鎮座する大山祇神社の存在だ。古代より「日本総鎮守」として名高いこの神社において、彼女は単なる戦姫ではなく、神の声を伝える「大祝(おおほうり)」の職を務める家柄に生まれた。これが大祝鶴姫と呼ばれる所以である。
神社を守護する大祝家は、戦乱の世において合戦に自ら臨む立場ではなかった。しかし、大内氏の勢力が瀬戸内に侵攻した際、兄たちが相次いで討ち死にしたことで、彼女は弱冠16歳にして陣頭に立つことを余儀なくされる。神職としての神聖さと、自軍を率いる将としての冷徹な決断力。彼女の体に抱かれたのは、大山祇神社に現在も奉納されている日本唯一の女性用とされる胴丸(甲冑)だった。胸部が膨らんだ独特の美しさを誇るその甲冑は、彼女が実在したことの証しとして今なお静かに異彩を放っている。