古い野球ファンなら覚えているだろう。かつてサイヤング賞といえば「最多勝」投手の独壇場だった。チームの打線が爆発して拾った勝利であっても、数字の上に「20」が並べば最有力候補とみなされた時代が確かに存在した。
だが、その常識は2010年のフェリックス・ヘルナンデス(当時マリナーズ)の受賞によって完全に破砕された。わずか13勝しか挙げられなかったヘルナンデスが選ばれた理由は、防御率2.27、249.2投球回、そしてFIPやWARといったセイバーメトリクス指標における圧倒的な優位性だった。現在では、個人の力ではコントロールできない「勝ち星」よりも、WHIP(1イニングあたりの与四球・安打数)や奪三振率、さらにはStuff+(球質評価指標)やExpected ERA(推定防御率)が投票者の心を動かす時代へとシフトしている。