1981年秋、東宝の映画配給によって全国公開された映画『典子は、今』は、当時の日本映画界に激震をもたらした。障がい者を一方的な庇護の対象として描くのではなく、社会の中で懸命に自立を模索する一人の若者として活写した本作は、単なるドキュメンタリー映画の枠組みを大きく超え、極めて強靭なヒューマンドラマとして成立していたからだ。
熊本市役所の戸籍課で実際に勤務していた彼女の日常を忠実にトレースし、足の指先を自在に使って電話を取り、料理をし、編み物をする姿をありのままに捉えた映像は、見る者の固定観念を根底から覆した。「手がないなら、足がある」。その言葉を行動で証明する彼女の凜とした佇まいは、劇場を埋め尽くした数百万人の観客に、生きることの本質的な尊厳を突きつけたのである。