なぜ母親は自らの子を手にかけてしまうのか。動物行動学の観点からこの現象を紐解くと、残酷に見える行動の裏にある合理的な淘汰圧が見えてくる。
哺乳類学の第一人者である今泉忠明氏は、過酷な自然界における小哺乳類の繁殖戦略について、限られたエネルギーを無駄にしないための本能的判断が働いていると指摘する。外敵の気配や極度のストレスを感じた母個体は、「現在の繁殖を放棄し、自らの体力を温存して次の繁殖機会に賭ける」という進化的なプログラムを無意識に作動させる。
視覚が極めて未発達で、主として嗅覚と聴覚に頼って周囲を認識する彼らにとって、ケージの外から浴びせられるスマートフォンのライトや物音は激しい脅威となる。野生における捕食者の接近と同等のストレスを人工環境下で与えないこと。本能のメカニズムを正しく知ることが、悲劇を防ぐ唯一の防壁となる。