奇跡の絶景に出会うための基本方程式は、シンプルでありながら極めてシビアだ。観測データが示す雲海発生の絶対条件は三つ。前日の日中と当日の早朝における「10度以上の気温差」、明け方の「湿度85パーセント以上」、そして「風速2メートル以下の微風状態」である。これらが綺麗に重なり合う日、雲海出現率は一気に70パーセント台へと跳ね上がる。
狙い目の時間帯は、日の出前後の午前6時から午前8時前後に限られる。太陽が東の山並みから顔を出し、放射冷却で冷やされた盆地の底に柔らかな光が射し込む瞬間、雲海はまるで生き物のように波打ち、陰影を深めていく。午前8時半を過ぎると地表が暖められ、霧は急速に上昇気流に乗って雲散霧消する。わずか2時間のスペクタクル。この刹那のドラマを掴み取るためには、前夜の段階でピンポイントの風速と放射冷却指数を把握しておく周到な準備が欠かせない。