本作の骨格を成すのは、日本のファッション界に燦然と輝くコシノ三姉妹の母・小篠綾子の実話だ。女が洋服を着ることすら珍奇な目で見られた時代、岸和田の町でミシン一台を武器に運命を切り拓いた彼女の人生を、第一級の伝記ドラマへと昇華させた。
企画を立ち上げたNHK大阪放送局の制作陣は、単なる美談や成功譚に仕立てることを潔しとしなかった。日本のファッション・アパレル産業の夜明けを泥臭く描き出すとともに、生活の困窮、戦火の残酷さ、そして商売への冷徹なまでの執念を容赦なく画面に焼き付けたのだ。
日本放送協会(NHK)が誇る数あるアーカイブの中でも、これほどまでに人間の「業」と「情熱」を剥き出しにした作品は稀である。小篠綾子という実在の怪物を下敷きにしながら、フィクションとしての跳躍を一切恐れなかった構成力が、物語を不朽の領域へと押し上げた。