賑やかな熱海銀座商店街からわずかに路地へ入った場所に、静かに時を刻む湯前(ゆぜん)神社がある。観光客の歓声から少し離れたこの神社こそ、熱海温泉の歴史そのものだ。
749年、絶え間なく湧き出る熱湯に困り果てた住民のため、箱根権現の万巻上人が祈願して源泉を海岸から現在の場所へと移したという伝説が残る。鳥居の目の前には、今ももくもくと白い湯気を立ち上らせる「大湯環欠泉」があり、かつては徳川家康へ温泉を献上する「御汲湯(おくみゆ)」の神事が執り行われていた。派手な装飾はない。しかし、大地から湧き出る温泉の恩恵に感謝し続けてきた人々の真摯な祈りの歴史が、石灯籠の苔ひとつにまで染み込んでいる。