世界に目を向ければ、かつて同じく「霊長類最強の男」と恐れられたロシアの怪物、アレクサンドル・カレリンが存在する。前人未到の公式戦連勝記録を打ち立て、相手を軽々と宙に持ち上げて叩きつける「カレリン・リフト」で世界を恐怖に陥れた大巨人だ。階級や性別こそ違えど、吉田沙保里がマット上で放っていた絶対的な威圧感は、まさにカレリンのそれと同等、あるいはそれ以上だった。
両者に共通していたのは、対戦相手に試合前から「勝つことは不可能だ」と悟らせてしまう圧倒的な心理的制圧である。技術やフィジカルの優位性はもちろんのこと、相手の心を試合開始前の視線ひとつでへし折る精神力。マットに君臨したふたりの王者は、単なる勝者ではなく、対戦相手の希望を奪う絶対君主として歴史に名を刻んでいる。