佐藤家の系譜において中心軸をなすのは、明治・大衆文学界の巨人である父・佐藤紅緑だ。青森の士族の家系に生まれた紅緑を中心に、その妻や子供たちが紡ぎ出した親族関係は、一般的な「華麗なる名門」のイメージとは一線を画す。そこにあったのは、凄絶な個性の衝突と、血に抗えない文学的狂気だった。
愛子の母である三笠志津は紅緑の後妻であり、愛子自身は次女として生を承けた。一方、紅緑の先妻・絹との間には、後に童謡詩人として時代を席巻するサトウハチローをはじめ、脚本家や小説家として活動した兄弟たちが存在していた。かつて日本文藝家協会などでも異彩を放った彼女の一族は、表向きの華々しさの裏で、破産、家庭崩壊、異母兄弟間の葛藤といった壮絶な影を背負い続けていたのである。