一方、同じ年に公開された『七人の侍』は、従来の時代劇の枠組みを根底から粉砕した。それまでの時代劇といえば、歌舞伎調の華麗な立ち回りと予定調和の勧善懲悪が主流だった。しかし、黒澤明が求めたのは泥臭いリアリズムと人間の剥き出しの生存本能だった。
三船敏郎が演じた菊千代の野生味あふれる咆哮、徹底した時代考証に基づいた合戦描写、そしてマルチカメラを駆使した躍動的なカッティング。予算は跳ね上がり、撮影所上層部からの度重なる制作中止勧告を撥ね退けながら、黒澤明は妥協なき映像美を追求し続けた。完成した作品は、映画という表現媒体が持ちうる最大のダイナミズムを世界に知らしめ、その後のハリウッド西部劇や現代のアクション映画の文法を決定づけることになった。