この言葉のルーツは古代ローマ時代に遡ります。戦いに大勝利を収めた将軍が街を練り歩く「凱旋式」は、市民からの熱狂的な称賛を浴びる人生最大の栄誉の場でした。四頭立ての戦車に乗り、紫の衣をまとった将軍は、まさに現人神(あらひとがみ)のような扱いを受けます。
しかし、その華々しい戦車の後方には、あえて1人の奴隷が同乗させられていました。奴隷の役割は、歓声に沸く将軍の耳元で絶えずこう囁き続けることでした。「将軍、後ろを振り返りたまえ。あなたは神ではなく、ただの人間であることを思い出すのだ(死を想え)」。
どれほど圧倒的な権力を手にしても、驕り高ぶれば足元をすくわれ、やがて等しく死を迎える。古代ローマ人は、勝者の傲慢(ヒュブリス)を防ぎ、謙虚さを保たせるための国家的な防壁としてこの儀礼を組み込みました。
この精神は、マルクス・アウレリウスやセネカといったストア派哲学者たちによって理論的に深められます。ストア派は「自分でコントロールできないもの(死や運命)」を受け入れ、「自分でコントロールできるもの(自分の意志や徳)」に集中することを説きました。死の不可避性を受け入れることこそが、心の平穏(アパテイア)を手に入れる鍵と見なされたのです。