社会心理学の領域では、視聴者がメディア上の人物に対して一方的な親近感や信頼を抱く心理を「パラソーシャル関係(疑似対人関係)」と呼びます。企業が巨額の契約金を投じてスターを起用するのは、この強固な心理的絆を商品へと転移させるためです。しかし、この手法には常に構造的リスクがつきまといます。
タレントのイメージに100%依存したブランディングは、ひとたび個人の失策や不祥事が発生した瞬間に、投じた数十億円のマーケティング資産がそのまま負債へと反転する脆さを孕んでいます。成熟した広告戦略を展開する企業は、タレントを「ブランドの核」にするのではなく、自社の提供価値を際立たせるための「媒介役」として冷静に位置づけています。
起用に向いている企業・慎重になるべき企業の判断基準
【巨額の契約金を投じるべき企業】
・商品やサービスの機能差が小さく、感情的な共感や社会的信用が購買決定を左右する業態(金融、保険、通信、消費財メガブランド)
・グローバル市場でのブランド認知を一気に獲得したい、あるいはリブランディングで企業イメージを抜本的に刷新したい企業
【タレント起用を慎重に避けるべき企業】
・自社プロダクトの固有価値や技術的優位性が明確であり、タレントの個性が商品の本質的なメッセージを覆い隠してしまう恐れのある企業
・数千万円規模の違約金リスクや急なCM差し替え費用に耐えうるリスクヘッジ予算・危機管理体制が整っていない中堅・新興企業