湯口の死から半世紀以上を経て、日本野球機構(NPB)およびプロ野球各球団を取り巻く環境は劇的に変化した。今日ではメンタルトレーニングの導入やメンタルヘルスケア体制の構築が進み、選手の心の健康はチーム運営上の最重要課題の一つと見なされている。
しかし、形骸化したコンプライアンスや、見えないハラスメントのリスクは現代のアスリートにとっても無縁ではない。SNSを通じた過剰な誹謗中傷や、莫大な契約金と引き換えに求められる過酷なプレッシャーなど、現代特有の負荷が選手たちを苛んでいる。
スポーツジャーナリズムに求められるのは、華々しいヒーローインタビューを垂れ流すことだけではない。アスリートが巨大なビジネス機構の中で人間性を奪われていないか、絶えず監視の目を光らせることだ。湯口が残した無言の叫びは、機構とメディアが果たすべき倫理的責任の原点として、いまなお重い問いを突きつけている。