1990年代末、この心理的崩壊を痛烈にアイロニカルに描き出して世界的なセンセーションを巻き起こしたのが、アカデミー賞を受賞した名作映画『アメリカン・ビューティー』だった。ケヴィン・スペイシー演じる主人公のレスター・バーナムは、広告会社の仕事をあっさり辞め、ファストフード店でアルバイトを始め、娘の友人に恋情を抱き、赤いスポーツカーを購入する。こうした「破滅的で衝動的な若返り行動」こそが、長らく大衆における典型的なイメージとして定着した。
しかし、近年の現実はより内省的で、より静かな絶望として進行している。Netflixの現代ドラマやドキュメンタリーが捉える40代から50代の主人公たちは、赤いスポーツカーを買う代わりに、スマートフォンの画面を無目的にスクロールし、睡眠トラッカーの数値に一喜一憂し、職場で「静かな退職」を決め込む。社会的な成功や安定した家庭というチェックボックスをすべて埋めたはずなのに、内面には巨大な空洞が広がっている。この「満たされているはずなのに虚しい」という感覚こそが、現代特有の病理だ。