八代亜紀さんの訃報において、多くの人々が耳慣れない病名に戸惑いと恐怖を覚えました。死因として発表された急速進行性間質性肺炎(RPILD: Rapidly Progressive Interstitial Lung Disease)とは、肺の中で酸素と二酸化炭素の交換を行う「肺胞」の壁(間質)に急激な炎症が起こり、壁が厚く硬く線維化してしまう致死性の高い呼吸器疾患です。
通常の特発性間質性肺炎は数年から十数年かけて緩徐に進行するケースが少なくありません。しかし、八代さんを襲った「急速進行性」のタイプは、発症からわずか数日あるいは数週間の単位で呼吸不全へと陥るという極めて過酷な特徴を持っています。肺胞壁が急速に硬化することで酸素が血中に取り込めなくなり、高度な酸素吸入を行っても低酸素血症を食い止めることが困難になります。
この重篤な病態を引き起こした根本的な原因が、特定疾患(難病)に指定されている膠原病の一種「抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎」でした。皮膚筋炎そのものは筋肉の炎症や皮膚の紅斑を主症状としますが、この特定の自己抗体(抗MDA5抗体)を持つ患者群は、典型的な筋力低下がほとんど見られない(無筋症性あるいは低筋症性)一方で、高確率で急速進行性間質性肺炎を併発することが呼吸器病学・リウマチ膠原病内科の臨床研究で明らかになっています。
日本リウマチ学会などの医学統計データによれば、抗MDA5抗体陽性の急速進行性間質性肺炎は、強力な免疫抑制療法を早期から導入しても6か月生存率が50〜60%前後に留まると報告されるほど極めて予後不良な難病です。八代さんの体内では、自己の免疫システムが暴走して自らの肺組織を激しく攻撃し続けるという、目に見えない苛烈な戦いが繰り広げられていました。