音楽プロデューサー・松浦勝人氏と出会う前、浜崎あゆみはテレビドラマや映画で活動する若手女優の一人でした。中でも大きな注目を集めたのが、1995年秋に放映された野島伸司脚本のTBS系ドラマ『未成年』です。
彼女が演じたのは、妊娠に苦悩する名門女子校生・田畑瞳役。いしだ壱成や反町隆史、香取慎吾といったキャストが顔を揃える中、脆さと危うさを孕んだ卓越した演技力を披露し、業界関係者からは演技派として将来を嘱望されていました。しかし、与えられた枠組みに自分を押し込める女優業に対して、本人の違和感は日に日に膨らんでいったと伝えられています。
芸能活動に息苦しさを感じて事務所を離れ、夜の渋谷や六本木へ居場所を求めていた頃、当時エイベックスの専務だった松浦勝人氏とディスコ「velfarre(ヴェルファーレ)」のVIPルームで運命的に遭遇します。松浦氏は、周囲に迎合しない彼女の瞳の強さと天性の声質に直感的な可能性を見出し、歌手としての再起を熱心に提案しました。
自著や後年の手記でも振り返られている通り、彼女は単身ニューヨークへと渡り、厳しいボイストレーニングを積むと同時に、松浦氏へ宛てた手紙を通じて自らの内面を言葉にする「作詞の訓練」を重ねていきます。他人があつらえた歌を歌うアイドルではなく、自らの剥き出しの感情を文字にするアーティスト「浜崎あゆみ」は、この雌伏の時期に誕生したのです。