東京進出に伴う巨額の負債や動物王国の解散など、晩年は決して平坦な道ばかりではなかった。しかし、畑氏は一切の言い訳をせず、借金を自らの著作と講演で完済。北海道の中標津町に居を構え、最期まで愛犬や愛猫たちと静謐な日々を過ごしていた。
晩年の彼が繰り返し語っていたのは、「人間が動物を支配してはならない」「愛玩として消費するな」という警鐘だった。世間がペットを擬人化し、都合の良い癒やしの道具として愛でる風潮に対し、ムツゴロウさんの共生論はどこまでも冷徹で、かつ深遠だった。
「動物を愛するとは、彼らの残酷さも、汚さも、野生の牙も丸ごと受け入れることだ」
ベッドの枕元には常に原稿用紙と万年筆が置かれ、心筋梗塞で倒れた後も、ペースメーカーを胸に入れながら新作小説の執筆を続けていた。遺された最後のメッセージは、人間中心主義に陥った現代社会への強烈な問いかけであり、命あるものすべてに対する無償の敬意そのものだった。