読後や視聴後に嫌な後味が残りつつも、読む手を止められない中毒性を持つ作品群を指す「イヤミス」。湊かなえの真骨頂とも言えるこの作風は、本作においても遺憾なく発揮されている。事件当夜に現場に残された置物の配置、失踪した息子の行動パターン、さらには周辺住民の発言に潜むわずかな食い違いまで、あらゆる箇所に緻密な伏線が仕掛けられている。
結末に向けて一気に加速する伏線回収のドラマは圧巻だ。真相が紐解かれていくプロセスで暴かれるのは、単なる犯人の犯行声明ではない。家族を守るための「嘘」や、愛するがゆえに重ねてしまった「沈黙」が招いた悲劇の連鎖である。最後の場面で示される再生への微かな希望と残り香のような切なさは、ミステリー史に残る傑作たる所以と言える。