吉兆の祖である湯木貞一氏は、茶の湯の精神を料理に昇華させ、料理人として史上初めて文化功労者に選ばれた伝説的料理人だ。「世界の名物、日本料理」を掲げた創業者の美学は、料理の味のみならず、器の選定から接客の一所作に至るまで徹底した妥協なき姿勢に支えられていた。
しかし、創業者の死後に暖簾分けされ、独立法人として歩み始めた株式会社船場吉兆の厨房では、その高潔な精神とは真逆の事態が常態化していた。発覚した食品偽装・料理再提供問題は、客が手をつけなかったアユの塩焼きや刺身を厨房で回収し、別の客へ使い回すという悪質な手口だった。さらに地鶏や牛肉の産地偽装、賞味期限の改ざんまで芋づる式に露見。一連の不正は、長年培われてきた高級料亭・日本料理業界全体の信用を根底から揺るがす背信行為だった。