長年、手指消毒の主役として君臨してきたエタノールと、次亜塩素酸水。この2つを同列に扱うことは、化学的にも法体系的にも大きな誤りだ。医薬部外品・化学工業の基準において、その立ち位置は明確に分かれている。
アルコール(濃度70〜80%のエタノール)は、手指の消毒薬として「医薬品」または「指定医薬部外品」の承認を受けている製品が大半を占める。ウイルスの脂質二重膜(エンベロープ)を瞬時に破壊し、常温で密閉保管されていれば数年間にわたって殺菌力を維持する安定性を持つ。
対照的に、一般に流通する次亜塩素酸水は、そのほとんどが「雑貨」扱いである。手指消毒用としての認可を取得しているものは極めて稀だ。次亜塩素酸(HOCl)分子は酸化力が非常に強い反面、光、熱、空気との接触によって極めて短期間で分解し、ただの水と微量の塩分に戻ってしまう。保存状態が悪ければ、製造からわずか数週間で有効塩素濃度が激減する製品も珍しくない。
手指の消毒には確立されたエタノールを用い、次亜塩素酸水はドアノブやテーブルなどの環境表面に対する「適切な手順を踏んだ清拭用途」に限定する。この使い分けこそが、感染予防の鉄則である。