世間一般において、村田英雄には「豪快」「骨太」「荒々しい男らしさ」といったパブリックイメージが定着しています。しかし、これは彼の音楽性の半分しか捉えていません。
歌唱音源を詳細に分析すると、力強いフォルテシモ(強音)の直前・直後に見せる、息を潜めるようなピアニッシモ(弱音)のコントロールが極めて精緻であることが分かります。歌詞の一文字一文字に宿る母音の響きを大切にし、子音を明瞭に立てて物語を語りかけるフレージングは、希代の表現者ならではの職人技です。
「ただ声を張り上げているだけ」というネット上の短絡的な誤解は、彼の円熟期の作品である「夫婦春秋」や「花と竜」を聴けば完全に払拭されます。豪放磊落に見せながら、実は誰よりも繊細に人の心の痛みに寄り添う繊細さを持っていたことこそ、彼が半世紀にわたり愛され続けた最大の理由です。