中松氏のキャリアで最も議論を呼ぶのが「フロッピーディスクを発明したのは誰か」というテーマだ。氏は1952年に「積層シート状磁気記録体」に関する特許を出願し、これが米IBM社の磁気ディスク開発に先行していたと主張し続けている。
実態はどうなのか。知的財産の歴史を紐解くと、IBM社が1970年代にディスケットの基本システムを確立した際、中松氏が保有していた複数の磁気記録関連特許との間でクロスライセンス契約および非係争契約を結んだことは紛れもない事実である。IBM側が製品の完全な独創性を主張する一方で、中松氏の特許網が巨大テック企業の進路に少なからず影響を与えていたことは、特許紛争の回避という法的手続きの記録からも読み取れる。完全なゼロイチの発明者論争を超えて、彼が黎明期のデジタル記録媒体に極めて近い位置で思考を巡らせていた証拠といえる。