『枕草子』を読んだ多くの人が抱くのは、「頭の回転が異常に速く、プライドが高くて毒舌」という印象だろう。実際、作中には無粋な貴族をからかったり、センスの悪い身なりをこき下ろしたりするエピソードが頻出する。だが、その強烈な個性の中核にあったのは、主君・藤原定子に対する狂おしいほどの純愛と忠誠心だった。
定子の実家である中関白家は、父・藤原道隆の死を境に没落へと突き進む。兄弟の失脚、宮殿の炎上、そして若き死。定子の身に降りかかった悲運は筆舌に尽くしがたい。しかし、『枕草子』にはその陰惨な現実がほとんど描かれていない。なぜか。清少納言は、定子が輝いていた美しい宮廷サロンの記憶だけを永遠に定着させようとしたからだ。
自分の弱音や悲嘆を一切封じ込め、定子の笑顔のためだけに知性を捧げ尽くす。清少納言の性格の本質は、表面的な勝ち気さではなく、冷酷な運命にユーモアと美意識だけで立ち向かった「鋼の覚悟」にこそある。