なぜ若者たちは新宿東宝ビル周辺、いわゆる「トー横」へと吸い寄せられるのでしょうか。トー横キッズ背景を取材していくと、そこには機能不全に陥った家庭環境と、学校社会からの激しいドロップアウトが存在します。
支援団体の聞き取り調査や当事者の手記には、「家にいても親からの虐待や暴言があり息ができない」「学校ではいじめに遭い、誰も自分を気にかけてくれない」という切実な叫びが綴られています。彼らにとって歌舞伎町は、危険に満ちた街であると同時に、「同じ痛みを抱えた仲間が唯一否定せずに受け入れてくれる場所」として映っていました。
しかし、その疑似家族的なコミュニティは極めて脆く、危険な搾取の温床でもあります。広場に集まる無防備な少年少女に近づくのは、心優しい仲間だけではありません。違法な薬物を売りつける売人、未成年を搾取する性風俗スカウト、そして高額な借金を背負わせる悪質ホストの影が常にちらついています。
精神科医や臨床心理士が指摘するように、日常的な不安や不眠を紛らわせるために薬局で購入した咳止め薬や鎮痛剤を大量に飲む「市販薬オーバードーズ(OD)」が蔓延した結果、現実逃避が慢性化し、脳の認知機能や恐怖心が麻痺してしまいます。当時の当事者が残した手記には、「ビルを見上げても怖いという感覚が消え、ここから飛び降りれば全部終わりにできると錯覚してしまった」という生々しい独白がありました。居場所を求めて街にたどり着いたはずの若者が、最終的にその街で自らを追い詰めてしまうという悲劇的な構造が定着してしまっているのです。