1991年秋、全国紙の朝刊を開いた読者は我が目を疑いました。新聞の全面広告に堂々と掲載されたのは、当時ポカリスエットや三井のリハウスのCMで「透明感あふれる国民的美少女」としてお茶の間に浸透していた宮沢りえさんの、文字通りのヌード写真集発売告知でした。サンタフェの新聞広告が起こした話題は瞬く間に列島中を駆け巡り、朝のワイドショーから文芸評論誌に至るまで、国を挙げた大論争へと発展したのです。
驚くべきは、版元が芸能系の大手出版社ではなく、思想書や語学テキストを主力としていた朝日出版社であった点です。週刊誌的なゴシップ報道による情報流出を徹底的に防ぎ、純粋な「芸術作品」として世に問うため、極秘プロジェクトとして印刷・流通ラインが組まれました。当時の関係者によると、社屋の一角に厳重なセキュリティルームを設け、限られた幹部と編集者だけで進行させたといいます。
発売されるやいなや全国の書店には長蛇の列ができ、最終的な発行部数は150万部を突破。タレント写真集としてはいまだ破られていない不滅の金字塔となりました。宮沢りえの写真集がなぜここまで売れたのかという問いに対して、当時の出版社会学は「男性の性的な視線だけでなく、若い女性や主婦層が『同世代の美しい肉体の記録』『部屋に飾るアートブック』として堂々とレジへ持参したこと」を決定打として挙げています。ハードカバーに布クロス装という重厚な造本も、罪悪感を芸術鑑賞の免罪符へと昇華させる重要な役割を果たしました。