「犬に噛まれたら何科を受診すべきか」という判断は、噛まれた部位と創傷の深さによって明確に分かれます。自己判断で湿布などを貼って翌日まで放置することは極めて危険です。
診療科の優先選択基準は以下の通りです。
1. 形成外科(第一選択・特に顔や手指、露出部)
顔面、首、指先など、運動機能や外見上の傷跡(整容性)が重視される部位は形成外科が最適です。組織の損傷を最小限に抑え、感染管理と将来的な傷跡の目立たなさを両立させた専門治療を受けられます。
2. 外科・整形外科(創部が深い場合・手足の咬傷)
牙が深く刺さり、皮下組織、筋肉、腱、骨に達している恐れがある場合は外科または整形外科を受診します。特に手の甲や指は腱鞘(けんしょう)に細菌が侵入しやすく、腱鞘炎から運動機能障害を起こすリスクが高いため、整形外科医による画像診断と創清掃(デブリードマン)が不可欠です。
3. 皮膚科(浅い引っかき傷や表皮の軽度な創傷)
出血がごく微量で表皮の損傷にとどまる場合は皮膚科でも対応可能ですが、皮下組織まで達している疑いがある場合は外科的処置ができる施設への転送となるケースがあります。
4. 救急外来・救急指定病院(夜間・休日・止血不能な場合)
夜間や休日の事故、あるいは多量の出血が止まらない、傷口が大きく開いている、めまいや悪寒を伴う場合は、迷わず#7119(救急安心センター事業)へ連絡するか、最寄りの救急外来を受診してください。
受診時、多くの患者が「なぜ傷口をすぐにきれいに縫ってくれないのか」と疑問を抱きます。これには明確な医学的根拠が存在します。犬の咬傷は「汚染創(不潔創)」に分類され、受傷後早期に創部を縫合して完全に密閉してしまうと、創内に残存した嫌気性菌が皮下で膿を形成し、重症感染症を引き起こすためです。医療現場では、生理食塩水による大量洗浄を行い、抗生剤の点滴・内服投与とともに創部を開放(ドレナージ)した状態で経過観察し、感染兆候が完全に消失した段階で遅延縫合を行うのが標準手技となっています。