喉頭気管分離術の導入を検討する際、家族や本人が最も深く苦悩するのが喉頭気管分離術後の発声と声の喪失です。気管から声帯へ呼気が届かなくなるため、声帯を振動させて発する自生の声は永久に失われます。この不可逆性こそが、本術式における最大のデメリットです。
また、鼻や口を通した呼吸が行われなくなることで、匂いを感じる嗅覚が減退する傾向があります。入浴時に永久気管孔から水が入らないよう専用のカバーを用いるなど、日常生活上の新しい注意点も生じます。
しかし、その代償として得られる喉頭気管分離術のメリットは計り知れません。最大の恩恵は、命を脅かす誤嚥性肺炎からの解放です。気管内への唾液垂れ込みがなくなることで、1日に何十回も必要だった気管内吸引の回数が激減します。喉のゴロゴロ音や激しい咳き込みが治まり、夜間にまとまった睡眠が取れるようになるなど、患者本人の身体的苦痛と介護者の負担は劇的に緩和されます。
発声を補う手段としては、視線入力装置やスマートフォンの合成音声アプリ、透明文字盤、電気式人工喉頭(EL)などの代替コミュニケーションツール(AAC)の活用が標準化されています。声を失う前に自身の声を録音・保存して合成音声化する「マイボイス」技術の普及もあり、コミュニケーションの選択肢は大きく広がっています。