物語の構造は非常にシンプルでありながら、機転と心理戦の極致が描かれています。ある日、山の中で獲物を探していた百獣の王・虎が、一匹の狐を捕らえました。絶体絶命の危機に陥った狐は、取り乱すことなく堂々と虎に向かってこう言い放ちます。
「あなたは私を食べてはなりません。私は天帝(天の神)から百獣の長に命じられた特別な存在です。もし私を食べれば、天帝の命令に背くことになり、恐ろしい天罰が下るでしょう」
当然、虎は狐の言葉を疑います。そこで狐はさらなる罠を仕掛けます。「私の言葉が嘘だと思うなら、私が前を歩くので、私の後ろをついて歩いてみなさい。森の獣たちが私を見て逃げ出さないかどうか、自分の目で確かめるとよいでしょう」。
虎が狐の後ろをついて森を進むと、行き会う獣たちは皆、恐れおののいて一目散に逃げ出しました。虎は獣たちが恐れているのが自分自身であることに気づかず、狐の威光を恐れて逃げているのだと完全に勘違いしてしまい、狐を食べるのを諦めて逃がしてしまったのです。
この寓話から生まれたのが「虎の威を借る狐」という故事成語であり、「他人の権勢や地位を頼みにして威張る小人物」を指す慣用句として後世に受け継がれました。