では、なぜインフルエンザと診断された際に抗菌薬が処方されるケースがあるのだろうか。疑問を抱く患者も多いが、そこには臨床現場ならではの明確な医学的根拠が存在する。
最大の理由は、ウイルス感染によって気道粘膜が破壊された後に生じる「二次性の細菌感染症」の予防や治療だ。日本感染症学会のガイドラインでも示されている通り、インフルエンザに罹患すると免疫バリアが一時的に崩壊し、肺炎球菌や黄色ブドウ球菌といった細菌が肺の深部へ侵入しやすくなる。特に高齢者や糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの基礎疾患を抱える患者では、続発する細菌性の呼吸器感染症が重症化し、命に関わる事態へと直結する。
「熱が一度下がったのに数日後に再び高熱が出た」「黄色や緑色の粘り気のある痰が止まらない」といった症状が現れた場合、感染症内科の専門医は細菌性肺炎の併発を強く疑う。医師が抗菌薬を処方するのはインフルエンザそのものを治すためではなく、弱った体に忍び寄る細菌の影を断ち切るための防衛策なのだ。