痙攣性発声障害における医学的アプローチは、保存的療法から外科的根治療法まで選択肢が確立されています。現在、医療現場で主に行われている2つの治療法について解説します。
① ボツリヌス毒素施注治療(ボトックス治療)
声帯の筋肉(甲状披裂筋など)に微量のボツリヌス毒素を局所注射し、過剰な筋緊張を一時的に麻痺させる対症療法です。日本国内でも保険適用となっており、多くの医療施設で標準的に行われています。
注射後数日から1週間ほどで声の詰まりが劇的に改善しますが、効果の持続期間は約3〜6ヶ月程度であるため、定期的な再投与が必要です。投与直後は一時的に息漏れやかすれ声が生じる期間があるものの、体への侵襲が少なく第一選択として広く用いられています。
② 外科的手術(甲状軟骨形成術II型など)
対症療法を繰り返すのではなく、構造的に声の詰まりを解消する手術療法です。特に京都大学名誉教授の一色信彦医師が考案した「甲状軟骨形成術II型(Type II Thyroplasty)」は、喉頭の軟骨を左右にわずかに広げてチタン製ブリッジなどで固定し、声帯が過剰に密着するのを物理的に防ぐ術式です。
局所麻酔下で患者本人の発声状態をリアルタイムに確認しながらミリ単位で調整できるため、長期的な発声改善が期待できます。京都医療センターや国際医療福祉大学東京ボイスセンター、山王病院など、音声外科の名医が在籍する専門医療機関で実施されています。
「完治した人」の定義について言えば、風邪のように完全に病態が消滅するというよりは、手術や定期的なメンテナンスによって日常会話やプロの歌唱・演技を何ら支障なくこなせる「寛解状態」を維持している人が多数を占めます。適切な治療法との出会いが、社会復帰の決定打となっています。