当時、日本国内で発生した単一施設における食中毒としては異例の規模となった「阿弥陀ヶ滝 流しそうめん 事故」。なぜこれほど大規模な集団感染へと発展してしまったのか、岐阜県生活衛生課の最終報告資料からその真相を紐解きます。
患者発生のピークは2023年8月11日から16日のお盆休み期間でした。全国から訪れた観光客のうち、確定患者数は47都道府県に跨がる計892名に達しました。共通の症状は発熱、激しい下痢、腹痛、嘔吐であり、患者便および現地の湧水から検出された病原菌が「カンピロバクター・ジェジュニ」でした。
調査によって判明した感染拡大の主因は、次の3点に集約されます。
- 未殺菌の湧水利用:そうめんを流す水だけでなく、茹でた後の麺を冷やす水や、希釈用のめんつゆ、調理器具の洗浄に至るまで、塩素消毒や紫外線殺菌を行わない沢の湧水をそのまま引き込んで使用していた。
- 大雨・台風による水質汚染:事故発生直前、東海地方を襲った記録的な豪雨および台風7号の影響により、山間部の水源地表土が削られ、野生動物(シカ、イノシシ、野鳥等)の糞便に含まれる菌が水源へ一気に流入した。
- 水質検査の形骸化:定期的な水質検査を長年怠っており、天候急変による濁りや菌の繁殖を検知できる安全管理マニュアルが存在しなかった。
カンピロバクターは熱に弱く、微量の菌量でも重篤な腸炎を引き起こします。清流の涼しさを売りにした「天然の湧水」への過信が、取り返しのつかない事態を招いたといえます。