コンポストの基本原理は、好気性微生物(酸素を好む菌)が生ゴミの有機物を二酸化炭素、水、無機物へと分解するバイオプロセスです。この微生物群が活性化すると、内部温度は50℃〜60℃以上まで上昇し、病原菌や雑草の種子を死滅させながら良質な堆肥へと変化します。しかし、投入する物質の性質によっては、この繊細な生態系バランスが一瞬で崩壊します。
典型的な失敗例が、柑橘類の皮による微生物への悪影響です。みかんやオレンジ、レモンなどの柑橘類の表皮(油胞)には「リモネン」と呼ばれる精油成分が豊富に含まれています。リモネンには強力な抗菌・殺菌作用があるため、分解の主役である糸状菌や放線菌の細胞膜を破壊し、コンポスト内の微生物相を著しく弱体化させます。その結果、分解プロセスが完全に停止し、内部が冷え切って腐敗菌が優占するようになります。
また、肉・魚・骨・多量の油の投入も重大なリスクを抱えています。天ぷら油や動物性油脂が基材に付着すると、通気性が遮断されてコンポスト内部が酸欠状態(嫌気性環境)に陥ります。酸素を失った環境下では嫌気性細菌が繁殖し、酪酸や硫化水素、アンモニアといった耐え難い悪臭ガスを放出し始めます。さらに、高濃度の塩分を含んだ調理残渣は浸透圧によって微生物の水分を奪い、活動を完全に停止させてしまうのです。