エミリーの凄みは、単なるクリエイターにとどまらず、卓越した経営者であった点にもある。1904年、ウィーンの中心地カールスプラッツ近くにオープンした「シュヴェスターン・フローゲ(フローゲ姉妹店)」は、当時の最先端を走る高級ファッションサロンだった。内装を手掛けたのは、建築家ヨーゼフ・ホフマンとデザイナーのコロマン・モーザー。白と黒を基調としたモダンなアール・ヌーヴォー空間は、当時の社交界の最高峰と目された。
最盛期には数十名の経験豊富な職人を雇い、ウィーンの上流階級や貴族層を顧客に抱えた。男性の庇護なしに女性が自らの腕と商才だけでビジネスを立ち上げ、成功を収めることが極めて困難だった時代において、彼女のサロンは女性の経済的自立を象徴する聖地として輝きを放っていたのである。