綿引勝彦さんの名を茶の間に決定づけたのが、1991年から1999年までTBS系「愛の劇場」枠で全8シリーズが放送された大ヒット昼ドラマ『天までとどけ』です。13人の子どもたちを育てる大家族の父親・丸山雄平役を務め、下町の印刷会社に勤める頑固でありながら愛情深い大黒柱を熱演しました。
母親役を務めた岡江久美子さんとの息の合った掛け合いは、当時の日本における「理想の夫婦・家庭像」として社会現象を巻き起こしました。綿引さんは普段の撮影現場でも本物の父親のように子役たちに接し、礼儀作法には厳しく指導する一方で、休憩時間には優しく語りかけるなど、スタジオには常に温かい空気が流れていました。
日本中を大きな悲しみが包んだのは、2020年4月23日、妻役を演じた岡江久美子さんが新型コロナウイルス感染に伴う肺炎により63歳で急逝した出来事です。当時すでに肺転移の治療中だった綿引さんは、事務所を通じて「信じられない。悔しくてならない」と深い悲痛のコメントを公表しました。そこからわずか8か月後、まるで後を追うように旅立った綿引さんの報に接し、日本中から「丸山家のお父さんとお母さんが天国で再会してしまった」と涙の声があふれました。
『天までとどけ』の子どもたちを演じたキャスト陣の現在を見渡すと、芸能界を引退して別の道を歩む者、俳優・ナレーターとして地道に活動を続ける者など様々です。長女役の若林志穂さんをはじめ、元子役たちが節目のたびにSNSや取材で語る綿引さんの思い出は、「厳しさの中に確固たる信念と深い慈愛があった」という言葉で共通しています。