旧民法時代、実務・学説を長年悩ませていたのが「表示された代理権の範囲を超えて契約を結んでしまった場合」の処理です。
例えば、本人が「Aに100万円の借入権限を与えた」と表示したにもかかわらず、Aが相手方と「500万円の借入契約」を結んでしまったケースを考えます。この場合、100万円までは表示の範囲内ですが、500万円という行為全体を見ると授与表示の枠を超えています。
旧法下では、代理権授与表示の「民法109条」と、権限外の行為(越権行為)を規律する「民法110条」をドッキングさせる民法110条の重畳適用(ちょうじょうてきよう)という高度な判例法理を用いて相手方を救済していました。
これが改正民法により、民法109条2項としてストレートに条文化されました。
表示された代理権の範囲外の行為が行われた場合でも、相手方が「その行為をする権限があると信ずべき正当な理由(善意無過失)」を有しているときは、契約全体の効力が本人に帰属します。複雑だった判例法理が条文に一本化されたことで、実務上の適用関係が非常にすっきり整理されました。