伊吹吾郎の代名詞といえば、TBSテレビの国民的時代劇『水戸黄門』で演じた「格さん」こと渥美格之進をおいて他にない。3代目格さんとして1983年から2000年まで、実に17年間にわたって印籠を掲げ続け、日本全国のお茶の間を魅了した。
しかし、この長期にわたる国民的ヒット作の裏には、過酷な撮影スケジュールと過酷な長期ロケが存在していた。『水戸黄門』の撮影拠点は京都・太秦の撮影所。東京の自宅を長期間離れ、年の大半を京都の撮影所で過ごす生活が何年も続いた。家を長期間留守にする夫に代わり、家庭の切り盛りから地域との付き合い、子育てのすべてを一人で背負ったのが妻だった。
京都からの電話で弱音を吐く夫を励まし、東京に戻ってきた際には疲れ切った体を癒やす手料理で迎える。時代劇の立ち回りで傷だらけになる夫の体を誰よりも心配しながらも、決して「仕事をセーブしてほしい」とは言わなかったという。あの凛とした「静まれ、静まれ!」の名セリフと力強い印籠の提示は、京都で孤軍奮闘する伊吹を東京から支え続けた妻の覚悟の賜物でもあった。