日本映画の金字塔として名高い小林正樹監督の『怪談 (1964年の映画)』で見せた耳無芳一役の鬼気迫る名演は、今なお世界中で高く評価されている。さらに後年、寺山修司監督が手掛けた遺作『さらば箱舟』など、アングラやアート系作品においても唯一無二の異彩を放った。
常軌を逸したキャラクターや狂気を孕んだ役柄を演じ切るためには、精神の極限状態が要求される。撮影現場から帰宅した彼を待ち受けていたのは、虚構の狂気をリセットさせる温かい食事と静かな日常だった。家族が作り出す平凡で穏やかな空気感こそが、彼を役の深淵から現実へと引き戻す命綱となっていたのである。