上野という街は、常にハイカルチャーとアンダーグラウンドが背中合わせに存在してきた。上野恩賜公園の美術館群が近代芸術の殿堂であるならば、その足元に広がる歓楽街は、民衆の剥き出しの情念を呑み込んできた大衆演劇の温床である。
近代文学の巨匠・永井荷風は、浅草や上野の楽屋裏を徘徊し、踊り子たちの生態や舞台の哀歓を『濹東綺譚』をはじめとする作品群に刻み込んだ。彼が愛したのは、整えられた劇場の格式ではなく、猥雑な路地裏に息づく生身の人間の体温だった。
戦後、高度経済成長期の熱気の中で現れたのが、一条さゆりという不世出のアイコンだ。彼女の過激で芸術的なステージは、社会通念や警察の介入と真っ向から衝突し、法廷闘争へと発展。それは単なる風俗の枠組みを超え、表現の自由と民衆文化のあり方を問う社会現象となった。シアター上野の舞台に流れる空気には、そうした先人たちが切り拓いた、表現に対する執念の残響が確かに染み付いている。