イェンゼンの不等式の凄まじさは、高校数学で学ぶ様々な有名不等式を「単なる特殊ケース」として一網打尽に証明できる点にあります。その代表例が相加相乗平均の不等式(AM-GM不等式)です。
正の実数 $x_1, x_2, \dots, x_n > 0$ に対して、自然対数関数 $f(x) = -\log x$ を考えます。2階微分を計算すると $f''(x) = \frac{1}{x^2} > 0$ となり、$f(x) = -\log x$ は $x > 0$ において厳密に下に凸な関数です。
すべての重みを均等に $p_i = \frac{1}{n}$ と設定し、イェンゼンの不等式を適用してみます。
$$-\log\left(\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n x_i\right) \le \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n (-\log x_i)$$
両辺に $-1$ を掛けて不等号を反転させ、対数の加法定理を適用します。
$$\log\left(\frac{x_1 + x_2 + \dots + x_n}{n}\right) \ge \frac{1}{n} \log(x_1 x_2 \cdots x_n) = \log\left(\sqrt[n]{x_1 x_2 \cdots x_n}\right)$$
対数関数は単調増加であるため、真数をそのまま比較することで、おなじみの相加相乗平均の不等式が導出されます。
$$\frac{x_1 + x_2 + \dots + x_n}{n} \ge \sqrt[n]{x_1 x_2 \cdots x_n}$$
通常の数学的帰納法では技巧的な式変形が必要とされる $n$ 変数の相加相乗平均が、凸関数の性質を使うだけでわずか数行で示せるこのエレガントさは、イェンゼンの不等式が持つ強力なパワーの証左です。