「女に男二つの漢字」として強烈な印象を放つ「嬲る」ですが、まずはその基礎情報から紐解いていきます。日本漢字能力検定(漢検)では1級対象の難読漢字に分類されており、一般的な日常生活で書く機会は極めて稀ですが、読書愛好家や物書きの間では定番の語彙です。
嬲る読み方は、訓読みで「なぶる」、音読みでは漢音で「ジョウ」、呉音で「チョウ・ドウ」と読みます。日本国内で流通している文章の大半では「嬲る(なぶる)」という訓読みで登場します。
辞書的な嬲る意味としては、主に以下の4点が挙げられます。
- 弱い立場にある者をからかったり、小馬鹿にしていじめたりする。
- 手先でいじくり回す、弄ぶ(もてあそぶ)。
- 自分の思い通りに相手を翻弄し、いたぶる。
- (古語的用法)男女が戯れる、じゃれ合う。
白川静氏の『字統』や諸橋轍次氏の『大漢和辞典』などの権威ある漢字学の記録を検証すると、嬲る漢字の成り立ちおよび嬲るの語源由来には興味深い原風景が存在します。古代中国における「嬲」は、二人の男性が一人の女性を取り囲んで口々に騒ぎ立て、からかい合っている様子を描いた会意文字でした。つまり、原初は陰惨な拷問や暴力を示す文字というよりも、「騒がしい」「賑やかにからかう」「戯れる」というニュアンスを含んでいたのです。
これが日本に伝来した際、古語の「なぶる(手で触れる、もてあそぶ意の『弄る(いじる)』『撫でる』と同根語)」と合合しました。中世から近世へと時代が下るにつれ、「戯れ」の意味合いが次第に後退し、「弱者をいたぶり弄ぶ」という残酷さを孕んだ意味へと比重が移っていった経緯があります。