2018年にユネスコの世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、原城跡や春奈の棚田、崎津集落など12の構成資産から成り立つ。この遺産群が世界から極めて稀有だと認められた理由は、壮麗な大聖堂の建築美にあるのではない。宣教師不在という絶望的な孤立状態の中で、既存の自然崇拝や仏教と共生しながら2世紀半にもわたって独自の宗教文化を育んだという「無形の伝統」が、集落景観という「有形の証拠」として今も奇跡的に残されている点にある。
現在、文化庁をはじめとする関係機関は、風化が進む石積みや伝統的な木造建築、信仰を物語る古文書のデジタルアーカイブ化を急ピッチで進めている。形ある建造物だけでなく、風土と一体化した信仰文化の保全こそが、国際社会に対する日本の重要な責務となっている。